【完】山崎さんちのすすむくん
満開を過ぎた桜は時折吹く夜風に白く舞い踊る。
「はー……」
そんないつもより幻想的に見える夜にも自然と溢れる溜め息は、もう白に染まることなくただ闇に溶けていった。
背に硬く冷たい瓦を感じながら空に伸ばした手には一枚の紙。
その紙の向こうでは一面に瞬く星達が静かに俺を見下ろしていて。
「はー……」
俺は再び深く息を吐き出すと、ぱたりと頼りなく手を倒して大の字になった。
事の起こりは夕餉の時。
『すーちゃん、預かりもんや』
意味深長な薄ら笑いを浮かべた林五郎に小さく折り畳まれた紙を渡された。
すーちゃん言いな!
生家での懐かしい呼び名に、そんな思いを籠めて一発デコピンをかまして受け取ったそれ。
夕美からの、文。
『三日後の夜、会えませんか』
書かれていたのはその一行のみ。
確かに夜なら互いに仕事を気にせず会える。休みを合わせるよりも効率的だ。
──が。
緊張、するんやけど。
なんでまた林五郎がこれ持ってきたかは知らんけどや、これってあれやんな……絶対なんかあるよな……。
あいつは、どうするんか決めたんやろか。
このままか、否か。
もし……もしやで?あいつが真っ向からどーんて、す、好きやとか言ってきたら……?
「ーーっ!! あかんあかんっ! いらんこと考えな俺っ!」
余計緊張してまうわっ!