【完】山崎さんちのすすむくん
「……や、俺の方こそ中々来てやれんくてすまんな」
移転やなんやは正直言い訳や。
だって、俺自身どないしてええかよぅわからへんかった。
考えても考えても整理なんてつかへんし、余計ぐちゃぐちゃするし。
そら過去に囚われ過ぎんようにしよとは思たけど、でもす、すすっ、……好きや、とかそーゆぅんはまだ……
「私、あれからずっと考えてたんです。……で、やっぱり私、烝さんが好きだなって思って」
ようわからんかってんけど。
おっ、お主結構ぺろっと言いよるなっ!
「……でも、私はこの時代の人間じゃないし、烝さんだってその、奥さんがいるし、正直、どうしたいとかはその、よく……わかんなくて」
音をたてて吹き抜ける風に片手で羽織を、もう片方で髪を押さえながら夕美は背を丸め、足許を見つめている。
どこか憂いたその表情が、いつもよりそれを大人びて見せた。
二十歳の、一人の女子に。
思わずハッと息を飲んでそれを眺めていれば、夕美はゆっくりと俺の方へと顔を向け、頼りなさげに笑った。
「だからその、烝さんは今まで通りでいいんで、普通に会って欲しいんです」
……そぉか、あれ以来俺が顔出すん避けとったさかい不安、やってんな。
此処で唯一事情を知る俺が離れてまうんやないかって。
せやから今日……。
その心細さが伝わってくると、無性に申し訳ない気持ちが湧き上がる。
「夕美」