【完】山崎さんちのすすむくん


「烝さんの手、すっごく熱い」


すぐ側でそんな呟きが聞こえた。


まさに今考えていたことを突っ込まれると妙に恥ずかしかったりするもので。


「へっ、あ、すまんっ」


わたわたと狼狽え、パッと手を離す。


そうすれば、俺の腕を支えにそっと体を起こした夕美と目が合って。


「もしかして烝さん、照れてたり……します?」


またも恥ずかしい突っ込みがきた。


「べっ、別にっ」

「じゃー隠さないで良いじゃないですかっ」


つい隠れるように口許に手の甲を持ってきた俺の袖を、夕美が引っ張ってくる。


ちょっ、何でまた急にイキイキしとんねん自分っ!!


ねぇねぇと答えを求めるように顔を覗いてくるそのいたずらっ子のような眼差しから逃げる術は無さそうだ。



「て、照れたらあかんかっ! しゃーないやんっ、こーゆぅん慣れてへんねんからっ」


もーやけくそやっ。


歳上の威厳やら何やらをかなぐり捨て、プイッと顔を背ける。


「あかんくないです、けど」


すると何故か勢いをなくした声に、俺は再びちらりと横目にそいつを見た。


そこには僅かに驚いたように目を瞠った夕美がいて。


「え、でも烝さん奥さん……」


……おっても慣れてへんもんは慣れてへんのじゃいっ。


男たるもの好きやーとか大切やーとか滅多に口にせんしやで? 夫婦になって五年、知りおうてからは二十ウン年や。


ぽかぽか感はあったかてドキドキ感とか……たまにしかあらへんかったもん。


まぁそのたまのドキドキがまたえ……やなーいっ!
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