【完】山崎さんちのすすむくん
あかんあかん、シッシッ。
ふと思い出したこの場にそぐわぬ記憶を無理矢理掻き消す。
「俺はやな」
「あ、やっぱいいです! ヘコむんで!」
「もがっ」
しかし俺の言葉をくノ一顔負けの素早さで塞ぐと、夕美は照れたようにふわりと笑った。
「それに、何かそーゆーとこも烝さんぽくていーです」
恥じらいながらもどこか吹っ切れたように笑むその顔と言葉が──
あかん、めっさこそばゆいねんけど。
「……俺っぽいってどんなんやねん」
「んー? 意外に不器用な感じ?」
「俺めっさ器用やけど」
「ほら、素でそーゆーこと言っちゃうとことか可愛いじゃないですか」
「……それ嬉しない」
むずむずと内に湧くむず痒さにそっと腹を掻いて、第二の沖田くんと化したそいつに口を尖らせる。
だがそんな俺にも夕美はその大きな眼を細め、あははと笑い、
「何かスッキリしました」
空に向かって大きく伸びた。
「色々モヤモヤしてたんですけど言ったら一気に気が楽になりました! やっぱり言葉にするって大事ですね」
緊張したーと拳を握るそいつは少し大きい俺の羽織の所為か、いつもより小さく見える。
「それに……」
「……それに?」
「やっ、やっぱ秘密ですっ。烝さん明日も仕事ですよね? そろそろ帰りましょっか」
秘密て。
最初から一転、どことなく嬉しそうな夕美に首を傾げるも、今までと変わらぬ態度に一先ず胸を撫で下ろし、大人しくその言葉に従うことにした。
そして一人になった帰り道。
夕美の匂袋の残り香が仄かに香る羽織に一瞬気恥ずかしさが湧いたことは、俺だけの秘密にする。