【完】山崎さんちのすすむくん
四月七日、再び改元が行われ慶応となった。
爽やかな風が薫る、うららかな季節だ。
「あ、宗次郎っ!」
緑を濃くした木々が生い茂る境内に一歩足を踏み入れれば、あちこちから童達が姿を表す。
あっという間に宗次郎こと沖田くんに群がったその小さな集団に押し出され、俺はぽつり寂しく茅の外だ。
木漏れ日美しい此処は壬生寺。
壬生に屯所を構えていた時から時折大規模訓練の際に間借りさせてもらっていた、新選組にとっても馴染みのある場所。
……まぁ俺はあんまそーゆぅんには参加せぇへんさかい数えるくらいしか来たことあらへんねやけど。
餌に群がる鯉のような勢いの童達に少々目を丸くし、ただそれを眺める。
「もー遅いわ宗兄っ」
「すみません、ちょっと団子が美味しくて」
「いっつもそれやん。で、俺らのは?」
「勿論ありますよ。でもちゃんと私の友達に挨拶出来た人だけです」
にっこりと諭すように人差し指を立てた沖田くんがおもむろにこっちを振り返ると、それにつられるように童の顔も一斉に俺を向く。
そして──
「「「「おじちゃん、こんにちはっ!!」」」」
元気な声が境内に響き渡った。
そうやんな……こないちっさい子ぉらから見たらそうやんな。
沖田くんと扱いの差にちょっぴり打ちひしがれながらも俺は穏やかに微笑み返す。
「こんにちは」
「挨拶したでー宗次郎っ、早よ団子ちょーだいっ」
「俺もっ」
「あ、うちもっ」
……くすん。
ええもん、ええもん! 団子はんにやったら負けたかて悔いはあらへんわっ。