【完】山崎さんちのすすむくん
「自分ら何してたん? 喧嘩?」
「や! 違いますよ!ねぇ?」
「そや、ちと遊んどっただけやしなっ。せやさかい自分らも仲良う遊びや」
一人が発したその言葉に、どちらともなく両手を取り合いへらりと笑う。
手本となるべき大人が喧嘩しとると思われたらあかんもんな、うん。
未だかつてない息の合いように何となく感動だ。
「あー自分らそっちな。それよかこっち来て」
しかしそれもその言葉で急降下する。
そっちて! そっちか!
「ちゃうわっ」
「違いますっ」
「はいはい、早よぅ早よぅ」
軽ぅ流し過ぎやろ自分!
ここでも息の合った否定の言葉をあげた俺たちの腕をその少年がガシリと掴む。
『ほんまにちゃうし』と念を押しつつ連れてこられたのはとある木の下。
そこには数人の童達が揃って枝を見上げていた。
「降りれなくなっちゃったみたいなの」
と、一人の女の子が指差した先には小さな黒猫。何をどうやって登ったのか、遥か頭上でじっと枝に座り込んでいる。
あー親猫とはぐれてもぉたんか。
「助けてあげられないかなぁ?」
「う、実は私木登りはあまり得意で」
「ちと待っとき」
女の子と沖田くんの会話を横目に、身近な枝に手をかけるとひょいとそこに登る。
こんなことなら朝飯前や。
幸いにも今日は裁付(タッツケ・裾の絞った袴)。下であがる童達の歓声を聞きながらスルスルと木を登ると、すぐに猫を目線の位置に捉えた。