【完】山崎さんちのすすむくん
「山ざ」
「でも」
安堵の表情を浮かべ、パッと顔を明るくした沖田くんに声を被せる。
一呼吸おいて沖田くんが言葉の続きを待つのを確認すると、俺はそっと口を開いた。
「副長には、話をして下さい」
これだけは譲れへん。
その意思を持ち、真っ直ぐに黒の双眸を見つめる。
「それは……」
「日々の隊務を割り振るのは副長です。貴方は、これから先隊務に支障をきたさないと言えますか」
こんなこた言いたないけど、気持ちだけで全部が全部なんとかなるっちゅう訳やない。
今はええわ。けどいつかしんどなる時も出てくるやろ。
そうなったら、俺だけじゃどうにも出来んさかいに……。
副長に言うことに怯えているのか、その人は唇を噛み、じっと畳を見据えている。
さっきよりも暗くなった部屋は彼の胸中を表しているかのようだった。
「……大丈夫や、あん人ならわかってくださる。さっき俺に言うたまんま伝えたらええ。俺も一緒に行ったるさかい、な?」
なんや、叱られに行くみたいやな。
あながち間違いではないだろう想像に苦笑する。
きょとんとした顔で動かない沖田くんに、俺はそのまま柔らかく口角を上げた。
「副長と話すっちゅうのに副長やない方擁護するとかほんまありえへんで? その分しっか啖呵きってや」
沖田くんを奮い立たせるにはコレが一番良い。
にやりと笑んだ俺に、その人は漸く笑顔を見せた。
「──はいっ」