【完】山崎さんちのすすむくん
白く輝くお天道様が夜明けと同時に容赦なく町を照らし始める。
黒光りする本堂の瓦屋根はゆらり陽炎が立ち上り、見るだけで暑苦しいことこの上ない。
冬も夏ものうなってしもたらええのに。
そんなつまらぬ考えが頭に浮かぶのもまた、暑さ故である。
養生室に顔を出し、朝稽古を終え、朝餉をいただき。
「……ぁふ」
久方ぶりの予定のない非番。
欠伸を溢し廊下を歩いていると、ドタドタと騒がしい足音が後ろから迫ってきた。
「おーにぃっ」
他でもない、義弟だ。
またえらいご機嫌さんやな……こん前まであない避けとったんもー忘れたんちゃうやろな。
勢いよく片腕を首に絡ませてきたそいつにふらつきながらも、その手を指で弾いて溜め息をつく。
「なんやねん、あっついねんからくっつくなや」
「お兄今日暇やろ、遊んだろ思て」
「阿呆か、お前に遊んでもらわんかてええわい。久しぶりにじっくり本でも読も思とったんや」
「そない引き籠っとるさかい謎の男とか言われんねん。もっとおーぷんにいけや。ちゅー訳で行くでー」
何がちゅー訳やねん。謎でええねん謎で。
ずんずんと進んでいく林五郎に読書を諦め、腕だけを払い除けると隣を歩く。
「なんやねん、おーぷんて」
「包み隠すなっちゅうこっちゃ。夕美に教えてもろてん」
「……夕美に?」