【完】山崎さんちのすすむくん

向こうも何も知らされていなかったのか、きょとんとした様子で動きが止まる。


一目で俺と林五郎を見分けるのは勿論、夕美だ。


「待たせてしもてすまんなーお兄も非番や言うさかい連れてきてん」


陽気な声をあげ俺の後ろから顔を出した林五郎が、足の止まっていた俺の背をグイと押す。


……何考えとんねんこいつ。


ほんの一瞬眉間を寄せ後ろを見やり、何を言っても今更かと諦めた俺は、そっと息を吐き出すと素直に二人に交じることにした。



朝餉をとってまだ一刻程。


故に俺は頼んだみたらしを待つ二人を横目に眺め、茶を啜る。


毎度のことながら二人ともよぉ食えるなぁ。


林五郎も俺よかようさん食いよる癖に肥えへんし……やっぱ若いてそんなもんなんやろか。沖田くんもほっそいけど島田はどでかいもんな……。


ん、俺も気ぃつけよ。肥えた乱破とか不細工過ぎるもん。屋根裏とか挟まってもーた日にゃ末代までの恥や。


ほわんと脳裏に浮かんだ醜い想像を掻き消したところで、床几(ショウギ)にみたらしが運ばれてくる。



「はい、どーぞ」

「ん」

「……ちょ、なんなんそのめっさ普通な感じ」



いつものように夕美から差し出された団子を一つパクリとかじった俺に、林五郎の据わった視線が向けられる。



……は! つい今気ぃつけよ思たとこやのに食ってしもた!
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