【完】山崎さんちのすすむくん
「良いよりんちゃん、私も聞きたい」
意外な程穏やかな声が発せられた。
僅かに目を見開く林五郎に、夕美はなおも急かしてみせる。
「昔の烝さんってどんなだった?」
「え、あー……まぁ、変わらんで、野暮天やし俺ら兄弟おっても平気でいちゃつきよるし。阿呆や」
「あーなんかそれ想像出来るかも」
は、と呆れたように小さく笑って口許に手をやった夕美はとても自然で無理をしているようには見えなくて。
……女子ってよぉわからん。
スッと肩の力が抜けた。
「ちゅうか別にいちゃついてへんしっ。夕美に妙なこと吹き込むなや阿呆!」
「えーほんまのことやし。あれでいちゃついてへんて言うんやったらお兄はどっからがいちゃつくあれやねん?」
「へ? そ、それはやなっ……」
「わー烝さんなんか意外とやらしー」
ぐっと言葉に詰まった俺を二人が、せやろ?、うん、と面白がるように見つめてくる。
……ちょ! なんで俺が虐められとんねん!?
二人の表情から、単にからかわれているのだということはわかる。
だが俺といる時よりも若干くだけた様子の夕美を見ていると、羞恥とは違う感情が僅かに頭をもたげた。
「あ、お兄が拗ねた」
その感情をもて余し、ついそっぽを向いてしまった俺は、我ながら情けないと思う。