【完】山崎さんちのすすむくん
「……ええねん別に」
ちょっとばかしやらしー想像したんは確かやしな。
胸に渦巻いた想いを吐き出すように溜め息をつく。
しかしながらやられっぱなしも気に食わない。
故に一つ、情報を落とした。
「自分かて藤堂助勤らとたまに島原行っとるくせに」
俺は何でも知っている。
「なっ!」
「島原って?」
「花街、所謂夜の街やな」
「え……」
「ちょっ! 別に俺は奢ってくれるて言わはるさかいついてっとるだけやし! 酒飲んで帰るだけやっ!」
「その割りに白粉の臭いぷんっぷんさしとるけどな」
「それは、単に向こうが勝手に絡んでくるだけで……」
「……へー」
「ちょ、ほんまやて! 頼むからそんな目ぇで見んとってやぁっ!!」
汚れたモノでも見るような夕美の眼差しに、必死の形相で言い訳を続ける林五郎を見てようやっと胸がスッとする。
ふん、倍返しやボケ。りんごのくせに俺をおちょくろするからや。
幾分温くなった茶をズズズと啜ると、俺は蒸し暑い店内で汗ばんだ体をそっと衿で扇いだ。
「え、もう帰っちゃうの?」
あれから少しして、二人が団子を食べ終えたところで思いの外長居してしまった店から出てきたのだが。
「ん、ちょい急な予定が入ってしもたんや。その代わりでお兄連れて来たんやし、あとは二人で遊んどって」
などと林五郎が急なことをのたまった。
ほなら先言うとけや。
つ、と目を細めた俺に何かを含んだ林五郎の視線が絡む。
……?
それに違和を覚え、眉間に力を入れた時だった。
「ほなな」