【完】山崎さんちのすすむくん
夕美の姿が消えた。
否、林五郎の後ろ姿に覆い隠された、というのが正しい。
っ!?
思いもよらぬその行動を頭が理解するよりも早く、俺はその衿を引っ掴んでいた。
「……へっ?」
殊の他簡単に剥がれたそいつに視線を送ることなく後ろへ投げ捨て夕美を見れば、何が起きたかを理解しかねるように目を白黒させて口許を覆うように指を顔に持っていく。
見る間に耳まで紅く染まったその顔に、否が応にも浮かんでしまうのは一つの想像。
それに何故か無性に腹が立ち。
「ぶ」
咄嗟に袖でその唇を拭った。
「林五郎何すんねんワレッ!」
くるりと振り返れば既にその姿はそこにはなく。遥か遠くでこっちを向いたそいつは元気に手を振ってみせやがる。
「夕美ぃーお兄に説明宜しくぅー」
そう叫ぶや否や、瞬く間に走り去るその姿はまるで韋駄天。
……んなええもんちゃうな、猿や猿っ。
その言葉に更なる苛立ちが湧き上がるも、流石に夕美を置いて追いかける訳にもいかず、既に通りを行く人々の視線を集めている今、これ以上此処に留まるのも憚られる。
「……あの」
遠慮がちに袖を引く夕美にクッと唇を噛むと、
「こっちや」
一先ず路地へと逃げ込むことにした。