【完】山崎さんちのすすむくん
日はまだ頭頂を過ぎようかというところ。
日が照り風もなく、じわりと蒸した空気の吹き溜まりであるそこは一段と暑く感じられる。
でも、腹の奥が熱を持ったように重たい気がするのはきっとそれだけが原因では、ない。
……ああもうっ。
更に角を曲がり人気のなくなった狭い裏路地へ入ると、そこで漸く足を止めた。
引かれるがままについてきた夕美に向き直ると、未だうっすらと紅潮するその頬にざわりと心が波打つ。
「さっきの、何なん?」
ついと目を逸らしてしまったのは無意識だった。
夕美に聞けっちゅうことはあれはこいつも認めた上でのことやったんやろか。
もしかして知らんうちに二人は……──
「や、何か私もよくわかんないんですけど……その、あれは、鼻に……」
「……はな?」
て、鼻?
「そこんとこ詳しく」
「や、だからその、いきなりりんちゃんが鼻にちゅーしてったんですけど……」
言い辛いのか、困ったような恥ずかしがっているような複雑な面持ちで上目に俺を見る夕美の人差し指が指すのは確かに鼻。
そーいやさっきもその辺に指……。
鼻……。
すうっと冷えた頭は突として林五郎の行動を一本の糸のように繋ぎ合わせていく。
あれが今日俺を誘ったんも、夕美を連れ出しとったんも、急に帰るとか言い出したんも、あの妙な視線も、夕美に口付けしたよに見せかけたんも、全部──
謀り、よったな。