【完】山崎さんちのすすむくん
「やられたわ」
ペシッと叩くように片手で半面を覆う。
恐らく目の前の夕美は何ことだかわかってはないだろうが、今日のこれは間違いなくあいつの企みだ。
……どこまでも気ぃ遣いやねんから。
溜め息を吐き出しながら、塞がれていない片方の目を開く。
そこに映る夕美の姿に俺はまた深く息をついた。
モヤモヤと定まらなかった感情が、不思議と今ストンと己の中に収まった気がしたから。
最早自身に言い逃れなど、出来そうにない。
そのきっかけがあいつの企みやっちゅうんがなんや気に食わんけどな……。
「あの、烝、さん?」
再度溢れた溜め息に夕美が不安そうに窺いくる。
その仕草にすら庇護欲を掻き立てられる俺は重症かもしれない。
「林五郎の阿呆っ」
顔に置いていた手で前髪を掻き上げ無造作に頭を掻く。
八つ当たりのようでそうでない俺の叫びに驚いた様子の夕美に、そっと手を伸ばした。
「むっ?」
今度はちゃんと鼻に。
せやかて何も無理矢理襲うよな真似せんでもええやんかっ。ちょいズレとってみ? もろ接吻やないかい。
内心そんなことを呟き袖口で鼻の頭を拭った俺は、そのままそいつを抱き寄せる。
認めてしまったからには伝えなければならない。
それが、真っ直ぐなこいつへの返し方だと思うから。
「す、すしゅっ、すすむしゃ」
「好きや」