【完】山崎さんちのすすむくん
琴尾の代わりとかそんなんやなくて、『こいつ』が。
ほんま勝手や思うけど、本気で取られたくないて……思てもうた。
もう自分に言い訳はせぇへん。
こいつは俺が琴尾の死を引きずっとったんも知っとるし、自分もいつおらんようなるかわからん存在や。
せやのに真っ直ぐにぶつかってきてくれた。
拠り所であろう思とったのに、いつの間にかこれが俺の拠り所になっとった。
せやから俺も、こいつには誠実でありたい。
認めるわ、
「俺はお前が好きや」
己の気持ちを。
「……、夕美?」
通りの喧騒を離れた所に聞き暫く、ジリジリと背を焼く日差しが辛くなってきた頃、全く反応を示さない夕美に声をかける。
その顔を覗こうと僅かに体を離しかけて。
「あ、ダメっ!」
「ぐぇっ」
背に回った手に引き戻された。
こーゆー時のこいつは力加減が容赦ない。
で、出るわっ。
圧迫された腹から上がりかけた水分を、唾を飲み押し込める。
「……恥ずかしいんで見ないでください。絶対、変な顔してるから」
が、次に聞こえたそんな頼りない声音に思わず笑ってしまった。
「気にせんでええのに」
「気にしますっ。……あの、さっきの、その、ホントに……?」
肩口でモゴモゴと喋る夕美に頬を緩めながら、その頭にぽんと手を置く。
「うん」
「でも烝さん……」
言葉尻を濁すのは俺に気を遣ってのことなのだろう。でも、こいつの言いたいことはわかってるつもりだ。
「ええんや。あいつもきっと、わかってくれる」