【完】山崎さんちのすすむくん


考えて、考えて、考えた。


それでも、やっぱりあいつは笑て許してくれる気がするんや。


あいつは、そんな奴やった。


それにもし俺が先に逝ってもうてたかて、あいつには幸せになってほしいて、そう、思うやろから。


心苦しくて、後ろめたくて、あいつを言い訳に色恋避けとったんは『俺』の気持ちや。


あいつならきっと、背を押してくれる。



「寧ろシャキッとせぇて怒られそやわ」



──『烝ちゃん』



俺はあいつを忘れる訳やない。


俺の中に、あいつはおるから。


なぁ、琴尾。


俺は遺されたものとして、俺の刻を生きてくで。


それで、ええんやろ。



琴尾──










「ズズッ」


……。


「何で泣くねん」

「だって、色々考えたら、何か泣けてきたんですもん……」


相変わらず肩口に口許を押し付けたまま鼻を啜るそいつに少しだけ困惑してしまう。


「嫌か?」

「そんな訳っ、……ないです」

「ほならお前さんはなんも気にせんでええて、大丈夫や。せやから、泣きな」


その手がぎゅっと俺を抱く力を強めたのを感じ安堵の息を吐くと、すぐ傍にある夕美の目許へと唇を寄せた。



「うひゃあっ!」



途端に腕の中のそいつが暴れもがいた。


僅かに開いた隙間を挟み、茹で蛸のような顔に掌を押し付けた夕美がこれでもかと目を見開いている。


「な、なめっ、なめっ!」
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