【完】山崎さんちのすすむくん
「……え?」
えへへと緩んだ笑みで目を細めた夕美の隙をついて、そっと一瞬、唇を重ねる。
久々の柔らかな感触、そして琴尾以外とは初となる接吻は正直照れる、物凄く。
せやけど! 可愛い言われたまんまで帰れるかいっ! 俺かてええ年した大人の男やしっ!
そんな思いで半ば勢いとも言える口付けを落とすと、夕美はまたも見る間に耳まで紅く染め上げた。
「いっ、いい今っ!」
「そーゆーこっちゃから、よろしゅう」
目を瞑って、こつり額を合わせる。
今まじまじ見られたら余計恥ずかしわ。
あえて焦点をぼやかす為に強引に寄せた額だったが、閉じた瞼の向こうで微かに夕美の気配が凪ぐのを感じる。
同じく、自身の鼓動も少しばかり落ち着きを取り戻していた。
すぐ傍にある体温が擽ったい。
「……その、こちらこそ、宜しくお願いします」
最早会話として成り立っているのかも定かでなかったが。
静かに目を開ければ、ぼやけながらも何となく視線が合った気がした。
「ん」
「へへ」
暑さとは違う、甘やかな熱が胸に灯る。
懐かしさを覚えるその感覚は少しだけ複雑な想いを湧かせたが、それはきっと思い出の名残。
長い瞬きのあと、再び捉えた朧(オボロ)な夕美に頬を緩めて。
また一つ、口付けを落とした。
「……キス魔……」
真っ赤な夕美が呟いたその言葉の意味は、結局教えてもらえなかった。