【完】山崎さんちのすすむくん

きらりと無駄に爽やかな笑顔が無性に憎たらしい。


ただ堪えきれないのか正直なのか、言い終わるや否やその人は無邪気に破顔した。


「もー冗談ですってば。しかしあれですねー噂って面白いですよねっ」

「ちっとも面白くありませんから。迷惑なだけですから」


無理矢理に思い出させられた己の噂にこめかみがひくり引きつる。


あの時、林五郎が沖田くんへと漏らした話はその後何がどうなったのか三段階で変化していった。



壱、恋仲が出来た。

弐、嫁がいた。

参、隠し子がいた。



一個目と二個目はまぁええわ。隠し子てなんやねん! 俺は夕美のおとんかっ!


「ちっちゃくて可愛い女の子なんですよーって説明してあげたんですけどねー」

「いらん情報付け加えるんやめて、お願い」


多分それや。それで妙な方向に行ってしもたんや。


新たな真実に頭が痛い。



「だって嬉しいじゃないですか! 左之さんの祝言もそうですけど明るい話題って皆が嬉しくなるでしょう? うちはどうしても殺伐としがちですから……ね」


う……そんなん言われたらあかんとか言えんやん……。


「てな訳で夕美ちゃんとは最近どうなんです? 物凄く気になるんですけど!」

「結局そこかい」


鼻息荒く迫ってきたその額をペチリと打つ。


ケチですねぇと口を尖らせた直後こほこほと軽く咳を溢した沖田くんは、元気そうに見えてもやはり体が気になる。


「さぁもう良いでしょう、食べたら帰りますよ」



もしかしたら俺は、主治医というより保護者かもしれない。
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