【完】山崎さんちのすすむくん






「──今日はこのくらいにしておこうか」



手にしていた本をパタリと閉じ、伊東参謀は柔和に目を細める。


それを合図のように彼方此方から上がる『有り難うございました』の声に、さながら寺子屋にでもいる気分になる。


一人で過ごすには十分過ぎるであろうこの部屋も、厳つい男が何人も集まると流石に手狭だ。



ちと退屈やねんなぁ……。



もう何度目かになる伊東参謀の講義。


しかしながらその内容は俺にとっては殆どが既に知っていることばかり。


まぁここにおる連中にとっちゃ聞いたことないよなことばっかやろからしゃーないねんけどな……。副長に頼まれてへんかったら出てへんわー俺。


込み上げる欠伸を噛み殺しながら、俺もまた部屋を出る男達に続いて歩く。


すると、不意にポンと肩に手が置かれた。



「やっまざっきさんっ」

「……藤堂助勤」


高く結わえた短めの髪が仔犬の尾を連想させるその人。


ニコニコと笑う彼に嫌な予感しか湧かない。


「もーいつ祝言なんて挙げてたんですかっ! もしかして前小間物屋で選んでたのって櫛だったとか?」


あー其の弐の方な。


爛々としたその目に引きつった笑いが浮かぶ。


まぁここはほんまのこと素直に言うた方がいらん詮索受けんでええか。


「……連れを亡くして以来祝言など挙げた覚えはありませんよ。まぁ好い仲の女子がいるのは間違いではないですが」

「え……あのさ、それ微妙に重くて反応に困るんだけど。弄っていいの? そっとしておくべき?」


そこは俺に聞きな。


「……そっとしておいてください。それより、藤堂助勤も儒学にご興味が?」
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