【完】山崎さんちのすすむくん



「あーお腹いっぱーいっ」


袖に手を引っ込めトコトコと前を行く藤堂くんの髪が満足げに揺れる。


あれが頭やのうてケツに付いとったらもちっとかいらしねんけどな……ほんまもんの犬みたいで。


あとに続いて暖簾を潜ると夕暮れにはまだ早いものの、空はもうほんのりと夕刻の色身を帯びている。


入った時よりも少し冷たくなった空気に肩を竦めて、目の前にそびえる島田の髷の上へと顔を向けた。


もー秋の空やなぁ。



「ご馳走様でーす」

「あ、りんごにはこれで貸し一つね」

「へっ、なんで!?」

「だってりんごはただ食べただけじゃん。ふふっ、何してもらおっかなー。ってか島田さんあんなに食べたのにまだそんなに食べるの?」

「いや、これは留守居にいじけた沖田くんへの土産だ」


前を歩く大中小。


然り気なく通りを歩く人々に紛れ、彼らに気取られぬように距離をとる。


「ねぇ烝さん早く行かなきゃはぐれ」

「こっち」


その背が人混みの向こうに隠れた一瞬を狙い、俺は夕美の手を引き脇道へと入った。



「……え、良いんですか?皆は」

「ええねんええねん、もー十分付きおうたしな」


俺らかてそないしょっちゅう会える訳やないのに最後まで付きまとわれたらかなんわ。


三人を気にして振り返る夕美に一度足を止めると、その顔を覗き込むように僅かに首を傾ける。


「あいつらと一緒の方がええ?」

「それは……その、二人の方が良いですけど……」


きゅっと顎を引き、照れながらもそれを否定した夕美に目を細め、ぽんと頭に手を乗せた。


「ほな、行こ」
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