【完】山崎さんちのすすむくん
とはいえ店を覗く程の時間はないし、真っ直ぐ帰るにはまだ少し早い頃合いだ。
故に夕美を送っていくついでに鴨川沿いに通る道を軽く散策することに。
「赤トンボだー」
土手に生える薄(ススキ)の尾花に止まるそれに顔を明るくする夕美はやはり幼く見える。
「好きなん?」
「や、別に好きとかそんなんじゃないですけど赤トンボに薄とか秋っぽいじゃないですか。あっちではあんまり見ないし」
「へぇ、トンボおらんの?なんで?」
「んー環境破壊ってやつじゃないですかねー今とは町の様子も全然違うし。星なんかホントもうちょろっとしか見えませんよ」
時折こうして話す先の世の話は興味深いものでもあるが、同時に心の隅に眠る不安も擽る。
初めて見た時から少しも変わらぬ夕美。
そこにどうしても越えられない壁を見てしまうから──
「……烝さん?」
「ちと確認」
繋いだままのその手を強く握った。
……冷ゃっこ。
冷えた指先。けれども幻ではない確かな感触に少しだけ心がほぐれる。
「もー此処は寒いな、吹きさらしやし。一本中の道通ろか」
ぴと、とその手を頬に当てそう提案すると、夕美が手をきゅっと握り返してきた。
「大丈夫です。烝さんの手あったかいし、此処の方がゆっくり話せるから」
へへっと笑う夕美の言う通り、風の強い土手はあまり人影もなく、のんびりと横に並んで歩いても然程邪魔にもならない。
……かいらしなぁもぅ。
そんなことを言うそいつに俺もまた、頬を緩めた。
「じっとしとって」