【完】山崎さんちのすすむくん
「ん、ええよ」
固く目を閉じた夕美の頭をぽんと叩く。
「……へ、あの……?」
事情を飲み込めてない様子で目を游がす夕美に俺は、ん、と自身の後頭部を指差した。
「……あ」
つられて上げられたその小さな手が触れたのは、首の後ろで一つに縛られただけの髪に差した赤い玉簪。
花の絵が描かれたそれは、先日町で見つけて思わず買ってしまったもの。
特別高価なものではないが見た瞬間夕美の顔が浮かんだから。
「似おとるよ」
やっぱしこいつには明るい色が合うわ。
「ああ有り難うございますっ」
俺の言葉に弾かれるようにして夕美が興奮気味に胸の前で拳を握る。
その顔は夕日に染め上げられたかの如く紅く──
「期待、したやろ」
俺はニッと悪戯っぽく歯を見せた。
「なっ!?」
「口付けされるーて思た?」
「くちっ!? ちょっ、生々しい表現やめてくださいよねっ」
「ほな接吻?」
「もっと駄目ですっ!」
耳まで真っ赤にして慌てふためくその姿は、実は予想通りだったりする。
あれから一月以上経つ今も慣れずに初な反応を見せる夕美に、ついつい加虐心が顔を出してしまう。
「すまんすまん、ほんまはあとで渡そ思てたんやけどな、此処ならええかなて思て」
「……うぅー」
「お詫びに髪結うたろ、団子にした方がそれも映えるし」
未だ口を尖らせた夕美に眉を下げて笑うと、その手をひいて道の端に寄った。