【完】山崎さんちのすすむくん
「山崎殿」
再び篠原が名を呼び、仕方なく顔を向ける。
「はい?」
「藤堂助勤から聞いたのだが……その、恋仲にまぐあいを拒まれるのなら私が慰め」
「結構です。では」
だが即座にきっぱりと言葉を被せ、風を切って歩きだす。
そして漸く辿り着いた己の部屋(篠原の部屋でもあるが)に滑り込んで障子を閉めると、湿った褌を無意識にきつく抱き、あの腹黒い笑みを思い出してギリギリと奥歯を噛み鳴らした。
……んのチビ……本気でいてもーたろか……っ!
久々に湧いたどす黒い殺意に、己の未熟さを省みることが出来たのは、それから三日後のことである。
「ぶぇっくしゅいっ!!」
何の前触れもなく吐き出されたそれ。
幼い顔立ちに似合わず豪快なくしゃみのお陰で俺の顔面は米粒だらけだ。
「……くしゃみをする時は手で口を隠せと教わりませんでしたか」
「あー昔ね」
昔ね、やあらへんわっ! そーゆぅんは常日頃から徹底してなんぼやねんでっ!
……あかん、落ち着け、これは天が与えたもうた俺への試練や。
平常心平常心。
悪びれた様子もなく布団の上でふうふうと粥を冷ます藤堂くんに、引きつる頬を必死で抑え懐紙で顔を拭う。
珍しく熱を出したこの人に薬を飲ませること。
その為に俺は藤堂くんの部屋に来たのだから。
「つか待ってなくていーですよ?」
「見てないと飲まないでしょう、さっさと食べてさっさと飲めば善ごと下がります」
「チッ」
最早俺に対して繕う気ぃなしやな自分。