【完】山崎さんちのすすむくん
さっきの飯粒攻撃も俺を追っ払う算段やったんやろけどな、そーは問屋が卸さんでっ。
「本来食前に飲むものを貴方が空腹にそんな不味いの飲めないなんて言うからこうして待ってるんですよ? そもそも組頭である立場で風邪をひくなど──」
「はいはい、わかりましたってセンセー」
俺が説教を始めると藤堂くんは漸く諦めたように椀を啜り出す。
相変わらず小生意気な口振りではあるが熱があるのは間違いなく、恐らくこの座ったままの問答に体がついていかなかったのだろう。
ったく、最初からぶーたれんと早よ飲んどきゃさっさ横になれたっちゅうのに。
ええ年して利かん坊で困るわーあの局長がたまに叱ってはるくらいやしなぁ。
八番隊の連中も大変なんやろな……。
幼い頃から甘やかされ育ったであろうことが端々から垣間見えるその人を半目で見据え、溢れ落ちそうになる溜め息の代わりに俺はそっと目を伏せた。
「では今日はもう寝とくこと。明日の朝また様子を見に来ますから」
「はーい」
不味そうに薬を飲み着替えを済まして横になった藤堂くんの額に濡れた手拭いを置いてそう声を掛けると、流石に返ってきたのは素直な言葉。
空の茶碗が乗った善を持ち立ち上がると、あ、と背に聞こえた声にもう一度その人を見る。
熱に浮かされた潤んだ目から上だけを布団から出したその人は、一瞬目を合わせるとだるそうに瞼を閉じて言った。