【完】山崎さんちのすすむくん



西本願寺の境内にある数えきれない樹木の中でも取り分け大きく有名な銀杏の木。


逆さ銀杏などとも呼ばれるそれは、確かに根っこが広がったような形で太い幹から枝を横へ上へと張り巡らせている。


その中でも天辺近くに広がった細い枝の先に見える小さな黒い影。


俺達の姿が見えたのか、それは僅かに首を動かし、ちりんと微かな鈴の音を鳴らした。


あの阿呆、まった性懲りもなく……。


どうやら俺の回りは動物まで迷惑をかけてくれる奴が集まるらしい。


『クロがまた木から降りれなくなったんです』


そう言われて来てみた俺は、猫のクセになんとも間抜けなその姿にフンと鼻を鳴らす。


『何でまた?』

『それが、左之さんが捌こうとした鶏が逃げて、それに追いかけられてしまって……』


こうなった経緯も全く間抜けな図である。


人助けに猫助け、俺ってホンマ人気者ー。


半笑いで見上げた木の上部は流石に枝が細く、クロの場所までは行けそうにない。


しゃあないなぁ。


「ちょっと手荒になりますよ」


辺りに人影がないのを確認すると、沖田くんにそう宣言して袖に忍ばせてあった飛び苦無を掌に滑り落とした。


狙うはクロが乗った小枝だ。


沖田くんの反応を待たずに投げたそれは、ひゅんと空気を裂いて枝の折れる軽い音を奏でる。


いくら臆病であっても猫は猫。


宙に放り出されたクロはしなやかに身をくねらせると途中の枝を足場に飛び跳ねた。


真っ直ぐ俺の方に向かって。
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