【完】山崎さんちのすすむくん






「で、その顔……ですか」


そう言って隣を歩く夕美は明らかに笑いを堪え、口許に妙な力が入っている。


「……しゃあないやん、受け止めたろー思たらそんままバリーってきやってもん」


お陰で両の頬にはくっきり残る赤い爪痕。


間抜け過ぎる。


加えて、恋仲と喧嘩しただのなんだのと妙な噂が増える羽目に。


んの糞猫……恩を仇で返すっちゅうんはまさにこんことやでホンマ。


軽やかに俺を引っ掻き、甘えるように沖田くんの腕に収まったクロのすました横顔が忘れられない。


この数日屯所で似たような、というかもっと露骨な視線を受けまくった俺は、そのいたたまれなさに未だざらつく傷を撫で、反対方向へと視線を逸らした。


あかん、乱破ともあろうもんが猫ごときにこないな傷付けられてまうとか間抜けにもほどがあるやろ俺……。


流石にちょっと折れた心に北風がいつにも増して冷たく感じる。


無意識に組んだ腕はそんな俺の拗ねた心の表れだったのかもしれない。



「でもそんなに深くなさそうだしすぐ治りますよ!」


明るい声で袖を引かれて隣を振り向けば。


「……」


微妙に目線の合わないところを見つめて歯を食い縛る夕美。


……。


「もぉいっそのことゲラゲラ笑てくれんかなっ」

「ぶっ、あははっ! ごめんなさーいっ!」


こんなやりとりでも何故かちょっと元気になったような気が、しないでもない。
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