【完】山崎さんちのすすむくん
「……で、何処まで行くん?」
目尻を押さえひとしきり笑った夕美が落ち着いた頃合いをみて、さらりと話を変える。
いつもは四条河原辺りをぷらぷらすることが殆どなのだが、今日は珍しく夕美の先導で少し北へと上っていた。
「ええと……あ、あそこです!」
笑顔で指差す先にあるのは藤色の暖簾が掛かった長屋の一角。
前に床几が置かれているそこは、どうやら茶屋らしい。
こんなとこにこんな店あったんや……こいつこーゆぅんはめっさ詳しなったよなぁ。
かなりこの町に馴染んできた夕美にしみじみと感心しつつ、その後に続いて暖簾を潜った。
「こんにちはー! おじさん、アレ下さいっ!」
「おー夕美ちゃん、ちょい待っときやー」
……またえらい仲ええなぁ。
だが目の前で交わされたやり取りには思わず目を瞠る。
直後、後ろにいた俺と目が合ったその親父が楽しそうに視線を這わせてきて。
意味深長な手つきで己の頬を撫で上げると、隙間の空いた歯をニヤリと見せて店の奥へと消えていった。
なんやまた妙ちくりんな勘違いされてる気ぃする……。
そんな何ともむず痒い気持ちで頬を隠すように掌で口許を覆い、夕美の隣に腰掛けた。
「ここ、よぉ来んの?」
「や、この前うちの店の子と来ただけなんですけどね。話してたら何となく仲良くなったんですよ」
……若い子好きそな顔しとったもんなぁ、あのおっさん。