【完】山崎さんちのすすむくん
視線を交わす俺達の空気を破り現れたのは勿論店の親父だ。
しかし持ってきた筈の何かは床几には置かれず、何故かそれは俺の頭に乗せられた。
……オッサン何すんねん。
「あ」
「どないする?」
「あっ烝さんそのままっ」
……んなぁ。
明らかに悪意を以てぐぐぐと押さえつけられるそれに抵抗しかければ、今度は何故か夕美が立ち上がってそれを制する。
「有り難うございますっ」
「や、夕美ちゃんやったら何でも作らしてもらうさかい、また欲しなったらいつでも言うとくれやす」
おい糞親父。
頭上で交わされるのんびりとした会話にこめかみがヒクヒクと引きつる。
が、直後漸く夕美が盆を受け取ったようで圧迫感と共に親父の気配が去っていって。
「烝さん見ててくださいね」
ふわりと風を纏って下りてきたそれに毒気を抜かれた。
「雪兎と……椿?」
細やかな造形で作られた小さく可愛らしいそれらは、普段あまり目にすることのない上生菓子。
到底あの親父が作ったとは思えない美しい菓子に自然と目が吸い寄せられる。
「此処のお店、なんかお偉いさんにもお菓子納めてるみたいで。だから今日作って貰えるように前来た時お願いしといたんです」
どこか照れの混じったような笑みで目を細める夕美の言葉を嬉しく思いつつも疑問も湧く。
「なんで、また?」