【完】山崎さんちのすすむくん
愛らしく、そして不吉なその花も夕美にかかれば瞬殺だ。
普通の女子はんな豪快な食い方せえへんけどな。
だがしかし俺もまた通りを女子と並んで歩き、手を繋ぎ、家事までこなすというこれまた普通では有り得ない男なのである。
頬を膨らしてきょとんと俺を見る夕美に笑いが込み上げた。
「や、かめへんよ」
そも、こいつが此処にいることが普通でないのだ。
何が普通で何がそうでないのかなんて、決めつけることはもう止めておく。
落花の様子が断首のそれを彷彿させると嫌われがちな椿の花も、結局はただの花でしかないように、周りの目にどう映ろうと、こいつはこいつなのだから。
「なぁ夕美」
今俺が笑えるんは自分のお陰や。
二年、改めてそう言われると何となく俺まで気持ちが改まる。
「おおきにや」
始めはまたけったいなもん拾てもぉたなぁ何て思てたくらいで、こない大切になるやなんて微塵も考えてへんかった。
せやのにこれからも傍におってほしいやなんて思てまう俺は、思てた以上に強欲らしいわ。
そんな自分に苦笑いを浮かべてそっと手を伸ばした。
「ついとんで」
その柔らかな唇についた白い粉を指で拭い、ぺろりと舐め取る。
何気ないやり取りを求めて。
「な、にをっ!?」
「だってまた汚しとるんやもん。流石に此処やと直接舐める訳にもいかへんし」
「い、いかへんに決まってますよっ」
「……ケチやなぁ」
この二年、俺は強くも、弱くもなった。
いつかは離さなければならない手。
その日はいつ、来るのだろうか。