【完】山崎さんちのすすむくん
あかん、此処、外。
頑張れ、頑張れ俺の理性っ!
込み上げる熱をぐっと飲み込んできつく歯を食い縛る。
漸く掻き抱いていたことに気が付き、その体に回した腕を緩めた。
「……これ以上んなとこでのんびりいちゃついとったら二人で仲良ぅ風邪っぴきや」
両手で触れた夕美の頬も、唇を寄せたその鼻も、まるで雪のようにひやりと冷たい。
まだ色を残す眼で見つめくる夕美に、最後にもう一度、静かに口付ける。
途端に疼く熱に耐えきれず、思わず溜め息が溢れた。
「……きっつ……」
暫く会えん最後がこれて。
ある意味拷問やろ……。
消え入りそうな呟きが漏れる。
これまでより一歩進んだその生々しい感触は、暫く忘れられないこと必至だ。
「え?」
「や、なんでもあらへんよ……」
そんな男の事情など露知らず、小首を傾げる夕美の初さが羨ましい。
心頭滅却心頭滅却。
頭の中でそれを何度も繰り返して、項垂れるように額を合わせた。
「……気ぃつけや?」
「烝さんこそ」
甘やかな余韻漂うこの空気は名残惜しいが、いつまでもこうしている訳にもいかない。
「……行こか」
仕方なく身を離すと、少しばかり長居してしまった路地裏をあとにすることにした。
帰り道、一人になった体に風が妙に冷たく吹きつける。
頭が冷えるとすり変わって思い浮かぶのは明日からのこと。
色々と大変な旅路になろうことが容易に想像できてしまうそれに、溜まった熱を吐き出すが如く、大きく息をついた。