【完】山崎さんちのすすむくん
朝。幾人かの隊士達に見送られ局長らが発ったあと、俺と吉村くんも密やかに屯所を出立する。
俺達は境内を囲む長い塀の角で落ち合う段取りだった為、其々出るのは別だった。
故に、約束の場所で俺が声を掛けた吉村くんは、案の定その細い目を限界まで開けて俺を凝視した。
「……へ? ……なっ、なんでまたそんな」
「副長からの命です。男二人より……夫婦(メオト)である方が動きやすいだろうと」
女の恰好に身を包んだ俺を。
そらびっくりするわな……。
急に決まったことであるが故にどうしても伝えられなかった。
向こうでの生活が長くなれば、同じ旅籠に居続けることにもなる。
そうなれば男二人よりも夫婦である方が要らぬ詮索を受けずに住む──
それが副長の考えだった。
まぁ少々面倒ではあるが、副長からのお達しに否を突きつける訳にもいかない。
若干遊ばれてる気もしないでもないがあくまでこれは隊務である、恐らくそれは俺の気のせいだろう、……多分。
兎に角、此度の安芸では全て女で通す。
その為にはこいつにもそれなりに振る舞うことに慣れてもらわなければならない。特に外では。
伝えることを伝え終わった俺はきゅっと口角を上げて微笑んだ。
「では参りましょう、貫一郎さん」
「か、貫一郎さんっ!?」
「夫婦なのですから当然でしょう? 私のことは柚とでも呼んでください。さぁそろそろ行かねば遅れてしまいます」
「は、はぁ……」
未だ戸惑う吉村くんの背を押して、数歩後ろを歩き出す。
薄雲が一面を覆う今日、長い旅が始まった。