【完】山崎さんちのすすむくん
摂津、播磨、備前、備中、備後、そして安芸。西国街道を進むその道程は十日程かかるらしい。
俺自身、大坂を越えれば流石にそこは見知らぬ土地。
やはり身も心も引き締まる。
敵を騙すにはまず味方から、そんな言葉もあるように、此度の俺達の件は局長以下安芸へ向かう人間には知らされていない。
あくまで俺達は影だ。
それ故に篠原と共に旅をしなくて済んだと思うと、俺は副長に心から感謝する。
「……ちょ、ちょっと待ってください山……お柚、さん」
京を離れて暫く、まだ慣れない様子で頼りなく俺を呼ぶ吉村くんに、仕方なく後ろを振り返った。
暫く続く緩やかな勾配の山道、気が付くと俺よりも若いそいつは息を荒くしてすぐへばる。
自分どんなけ体力ないねん……。
「まだ初日ですよ、しっかりしてください」
「そ、そんなこと言ったって、私は元々論客として使われることの方が多いんですから……というか、お柚さんは元気ですよね、それ、動きにくそうなのに」
「まぁ慣れてますからね」
「え?」
あ、あかん、つい。
目を瞠るそいつに慌てて微笑む。
「普段から隊務で町を彷徨くことが多いんで歩き慣れているんです」
「あ、ああ、そうですよね」
また可笑しな噂を一つ作ってまうとこやった……。
納得した様子で頭を掻いた吉村くんにそっと胸を撫で下ろして、その背をぽんと叩いた。
「日の傾きからみて恐らく局長達も次の宿場で宿を取るでしょう。あと少しですから頑張ってくださいね」
嗚呼俺って健気……。