【完】山崎さんちのすすむくん
少しして着いたのは差程大きくもない宿場町。
通りに並ぶ店の人間に然り気無く確認すれば局長達の入った旅籠はすぐにわかった。
その近くにある手頃な旅籠に入り狭い部屋に身を落ち着かせると、漸く窮屈だった変装を解いていく。
「わぁ……本当に山崎さんだったんですね……」
今まで疑っとったんかいっ!
それをすぐ傍でまじまじと見つめていた吉村くんに頬が引きつった。
ちゅうか近い近い。
「私じゃなかったら一体誰なんですか……」
「え? や、まあそう言われたら困るんですけど……美人さんに連れ去られるのも良いかなと」
「よくありません。それ、脱走願望ですか?」
「ち、違いますよ! でもたまに夢みるくらいは許されるかなって思って!」
どんな夢や。
今まであまり個人的な付き合いはなかったが、こうして話すとどこか沖田くんと同じにおいのするそいつに一気に気が抜ける。
顔は似ても似つかんくらい質素やけどな。
…………。
「して、何を?」
「あ、本当に胸がないのかなって思って確認を」
「あーはい、そーですか……ってあほぬかしとんちゃうでボケッ!」
「へぶっ!」
何いきなし脱がしにかかっとんじゃいっ!
そんでもし俺がほんまもんの女やったとしても、それはそれであかんやろ、ただの助兵衛やんっ!
沖田くんの方がよっぽどかいらしわ!
畳に叩き落とした頭を冷ややかに見下ろしながらはだけた衿を正すと、先行きの不安さに只々溜め息が溢れた。