【完】山崎さんちのすすむくん
行灯の薄明かりが仄かに照らす部屋の隅に降り立つと、布団を敷いていた局長に声をかける。
小さく縮こまった尾形に対して局長からはその手にあった枕が飛んできた。
流石局長である。
「……やっ、山崎くん?」
「はい、此度は副長の命により吉村と共に追行して参りました」
枕を脇に置き、片膝を付いて事情を話せば、下げた視線の向こうにある二つの気配から僅かに緊張が解ける。
「すみません、少し内密にお話しさせていただきたかったものですから。……参謀殿はお隣なんですね」
普通に考えて局長と参謀が同室や思ててんけど。
顔をあげながら隣とを隔てる壁にちらり視線をやると、まだ少々ぎこちないものの漸く局長が笑みを見せた。
「あ、ああ、篠原くんがこれでと言うものでな。呼んでこようか?」
なんやろ……それめっさ他意がありそぉで恐ろしねんけど……もしかして伊東さんも実はかめへん感じなんやろか……。
行灯の灯りが消えたあとの隣室は出来れば想像したくない。
瞼を閉じて気持ちを入れ替えると、俺は改めて局長を見据えた。
「いえ、あまり長居も出来ませんしこのままで。……局長方はこのあとすぐに京へ戻られますか? それとも暫く此方に残られますか?」
まだ今日の悔しさが残っているのだろう、途端にその表情が引き締まる。
「このままでは帰れまい、もう少し足を伸ばしてみるつもりだ。ここからは動きやすいよう二手に別れる、伊東くん達とは別行動だ」