【完】山崎さんちのすすむくん
決められた範囲を探索し、少しでも気になる情報を得ると飛脚を飛ばす。
とは言え、大した収穫もないままそんな毎日を送っているうちに、気が付けば桜も散った。
入れ替わるように鮮やかになった緑が、暖かな風に力強く揺れる。
季節の移ろいを感じさせるそれらを見ると、流石の俺も、胸に燻る密かな想いが顔を覗かせ始めた。
そろそろ二月(フタツキ)かぁ……。
あの時夕美に口にしたそれも、もう間もなく過ぎようとしていた。
どこか感慨に浸りながら、慣れた足取りでいつもの旅籠へ戻る。
襖の向こうにはこれまた慣れた気配があった。
「あ、お帰りお柚ちゃん! 今日は私の方が早かったね」
……なんやろ、この虚しさは。
初めはあれだけ呼び辛そうにしていた吉村くんも、今ではまるで本当の名のようにそれを口にする。
ちゃうねん……俺はこいつと夫婦ごっこがうまなりたいんちゃうねん……。
脱力したまま部屋に入った俺に気付いているのかいないのか、吉村くんは機嫌良さげに何かを差し出してきた。
それは、
「……酒?」
でっぷりとした大きな一升徳利だった。
「ええ、たまには良いでしょう? ずっと休まず動いてるんだし」
親に隠れて悪さをする童のような顔で俺を見る吉村くんも、確かにそろそろ疲れが溜まっているんだろう。
……せやなぁ、まぁたまにはええか。いつ戻れるかもわからんし。
それに、実は俺も呑みたいなーて思とったんや。
珍しく息が合った吉村くんに、俺はニヤリと口角を上げた。