【完】山崎さんちのすすむくん
俺はどちらかというと、宴会の席では一人で杯を傾けることが多い。
灰汁が強くてどうしても視界に入ってくる幹部連中は兎も角、その他大勢の酒のたしなみ方はあまり気にかけていなかった。
故にだ。
「ーーって、聞いてますぅー? お柚ちゃんっ」
ぐでんぐでんに呑まれまくった吉村くんに俺は今、ちょっと引いている。
自分酒癖悪過ぎやろ。お陰でこっちが酔えへんやんけ。
それなりに酒は入っている筈なのに、べろべろになって絡んでくる酔いどれを見ているだけで何故だか熱が奪われる。
こいつの着物ひっぺがしてどっか行って飲んでこよかな……。
俺の膝に額を押し付け動かなくなった吉村の帯を見つめていると、ふとそんな考えが過る。
──が。
「もー聞いてないでひょっ!」
「わっ!?」
突如そいつはガバリと起き上がった。
途端に肩に強い力が加わり、景色が流れる。
……、はい?
気が付くと、視界には少々煤けた天井と真っ赤な顔の吉村だけが映っていた。
酔っ払いの力は侮れない。
「ちゃんと聞いてくらさいよぉー」
「す、すまん、聞くから早よ退いて」
「いやれすー」
「何でやねん、阿呆ゆうてんと早よ退きや」
「だからぁー良いじゃないれすかぁーわらしたち夫婦でひょー」