【完】山崎さんちのすすむくん
……ああ、夕美や。
久し振りに見るその姿は、やはり記憶の中にあるそれと何一つ変わらない。
丸い目、幼さの残る面立ち、背にかかる長い髪。
それらを見た瞬間、胸が疼いた。
素直に喜びを感じる俺がいる。
ただ一方で、名を呼んだきりこっちを見つめるばかりで動かない夕美に不安も募った。
「……久し振り、やな」
すぐ傍に立ち止まり、もう一度声を掛ける。
温く湿った風がその髪をさらって、漸く動いた夕美の手がそれを耳に掛けた。
そして逸らすことなく俺を見続けるそいつは、そのまま手を俺へと伸ばし──
「お帰りなさいっ」
頬を摘まんで、笑った。
……へ?
その笑みが朗らか過ぎて、思わず拍子抜けた。
「もーあんまり長いんで忘れちゃうとこでしたよ? うんうん、本物!」
そう言ってふにふにと頬を触る夕美はごく自然な様子に見える。
自然に、喜んでいる。
……え、何これ?めっさふつーやねんけど。え、何? もしかしてもしかせんでも俺の考えすぎっちゅーやつですか?
「烝……さん?」
そんな夕美に反応出来ず固まる俺に、そいつが不思議そうに首を傾げ。
ようやっと、手が、動いた。
「や、ただいま」