【完】山崎さんちのすすむくん

久々の温もりは、さっきまでの不安を呆気なく溶かしていく。


すぐ傍にある懐かしい香りに、自然とその背に回す腕に力が籠った。


逢えない時を寂しく思っていたのはこいつも同じで、こうして久し振りに逢えたことを喜んでいるのも同じ。


それが、心底嬉しい。


そんな単純な己に笑いが込み上げるけれど、今は隊務も何も関係ない。


こんな時くらい何も考えず単純な男であっても良いと、思う。


それもまた、俺なのだから。



「すす」


少しばかり苦しかったのか、腕の中で身を捩り、名を呼びかけたその唇を強引に塞ぐ。


途端に頭の奥で何かが弾けた。


あれ以来触れることも、顔を見ることも出来なかったのだ。


今日くらい、許してほしい。



本能のままに貪る熱。


ずっと触れたかったその柔らかな感触に、意識が持っていかれる。


──トンッ


くらくら、する。


──トンッ


欲が、湧き上がる、……のに。



「んー!」


──ドンッ!


「っ!?」


結構な力で殴られた背中が痛い。


な、なんなん? 俺あかんことした?今そーゆー流れやった!?


反動で離れた顔で、恐る恐る視線を夕美に戻す。


すると困惑やら羞恥やらなんやらがごちゃ混ぜな眼で、キュッと唇を結んでいるそいつがいて──


はたと、気付いた。



「……お久しゅう、山崎はん。んなとこで盛ってはったらあきまへんえ?」



後ろに人がいると。
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