【完】山崎さんちのすすむくん
ひっ!?
咄嗟にビクリと背筋が伸びるが時既に遅し。
不自然にぎこちない動きで振り返った先にいたのは勿論、
「いやぁー堪忍や? 声かけてええもんか迷てんけどな、うっとこも飯炊き女で売っとる訳やあらへんさかい、店前でうちの女子衆とイチャコラされたらちいっとばかし……な? あれやねん」
意味深長な笑みを浮かべた藤田屋の主人だ。
見・ら・れ・た!!
「すんまへんっ」
しかもまたこれ生々しぃやつ!
顔から、というか耳から火が出る勢いである。
加えて後継人のくせに預けた女子にガッツリいってた俺と、あろうことか昔から付き合いのあるこの親父にという事実。
あかん……俺立ち直れへん……。
ちゅうか何でまたこのおっさんまでんなとこおんねん……。
何て思いが伝わったのか、バクバクと煩い心の臓に思わず細く息を吐いた俺に、主人はニヤリと笑みを深くする。
「いやな? ほら流石に毎日となると気ぃついてまいますやん? 女の子一人で夜外出すんは危ないしなぁ、あまりに健気やさかい付きおうたることにしましたんや」
今はちと厠に行っとりましてん、なんて続ける主人の言葉はもうどうでもよくなった。
それよりも気になるのは──
「毎日て、いつから?」
夕美のその行動だ。
ぽそり小さく確認すると、夕美は少しばかり言いにくそうに、目を逸らす。
「えと」
「一月くらい前や思いますわ。毎日四半刻程外で待ってやってなぁーほんま健気なええ子やわ」
……おっさん、俺らの会話邪魔せんとって。