【完】山崎さんちのすすむくん
流石にあのまま店の前で話すのは、と、なんとか長屋の端の路地まで来たものの。
なんとなーく気不味い。
あのおっさんが最後にいらんこと言いよったさかいに……。
しかしながら身から出た錆とも思えないこともないし、何より夕美が大事にされていることは有り難いことである。
それにお陰で頭も少し冷えた。
空気を変えるように大きく息を吐き出し頭を掻くと、ぽん、と夕美の頭を叩いた。
「長い間連絡も出来んとすまんな。また次、色々話すわ。今日はもう遅いし早よ寝」
俺にだって隊規というものがある。あまり遅くなる訳にもいかない。
今言っておかなければならないのは詫び、そして、
「その……おおきにや」
礼。
何が、とは言わないが、この気持ちだけは今伝えたかった。
こんな俺を笑顔で迎えてくれた夕美に。
「……へへ、お帰りなさい」
ようやっといつもの様子に戻った夕美が照れ笑いを浮かべ、空気が和らぐ。
「ん、ただいま」
そんな言葉を言いあえる相手がいる。
それがきっと、今の俺にとって何よりの幸せだ。
頭を撫でるようにして前髪を掬うと、そっとその額に唇を寄せる。
唇にしなかったのは、一応欲が出ないようにと己の抑制だったり……する。
「……ほな、帰ろか」
頑張れ、俺。