【完】山崎さんちのすすむくん
ようやく屯所が見えた時には、もうあと一刻もすれば日付が変わろうという頃合いだった。
いつもは既に人気のないはずの屯所の裏門なのだが、今日ばかりは違う。
まだ少し距離のある門の向こうには、何やらヒソヒソと言葉を交わす二つの気配。
そして、理解する。
……ふーん?
まぁこの暑さやったらほっといても風邪は引かんやろけど……。
前髪を引っ張りながら少し黙考すると、ここは一つ受けてたってやることにした。
音もなく境内を囲む塀へと飛び上がり、二人の真上に移動する。
「えーやっぱお兄は帰ってきそうや思いますけどねー」
「絶対帰って来ないって。あーゆー一見真面目そうな人間が意外と色恋に回りが見えなくなるんだから」
「まぁ……そこは確かに合ってるかも」
「でしょー? ま、このまま日が変わったら僕の勝ちだからね。やまべの葛餅五つ宜しく」
そして、門のすぐ側に腰を下ろし、小声ながらも呑気にくっちゃべる林五郎と藤堂くんを冷たく見下ろした。
自分ら……人の恋路を賭博にするとはまたええ度胸しとるやないかい。
ちゅうか林五郎もいらんとこ同意せんでええねん阿呆め……微妙にほんまのことやからドキドキしてまうわっ。
ついとさっきのことを思いだし、思わず熱くなった体を衿で一扇ぎすると、俺は宙に身を投げた。