【完】山崎さんちのすすむくん
何処か他所を見つめ呟く藤堂くんの言いたいことはわかる。
これは汚い、すれた考えだ。
まだ若く勢いのある彼には酷く勝手に思えるのだろう。
しかし、此処での俺もまた組織に張り巡らされた縄の内の一本なのである。
感情に任せて易々と同意する訳にはいかない。
「では貴方の隊の隊士達が皆そうして朝戻らなかったとしましょう。稽古も出ず、隊務にも支障がでるでしょうね。そうなれば貴方は隊を仕切る組頭としてどう責任を取りますか?」
少々狡い例えであるが、それが組織というもの。
助勤として他の者の上に立っている以上、感情だけの意見は通らない。
もう新選組は、旗揚げ当初のような内輪だけの組織ではないのだから。
「……わかってるさ」
少しの沈黙が続いて、小さく呟かれた声。
ぐっと奥歯を噛んだような顔は、理解は出来ても納得は出来ない──そんな気持ちがありありと滲み出ていた。
それがどこか昔の自分を、林五郎を見ているようで、俺はふと口許を緩ませた。
「けれどまぁ組織を良くする意見は大切です。私からそれとなく副長に話しておきましょう」
確かにあんま堂々と隊規を破られるんも困りもんやもんな……。
そんな俺に藤堂くんは一瞬目を瞠って、
「宜しく。それよりさー感動の再会はどうだったの?」
意地悪く笑った。
「……黙秘します」
「どうせあっこのおっさんに邪魔されたんやろ? へっ、ざまぁ! ぶっ!?」
なんや大人し思とったのに要らんとこだけ口挟んでこんでええねん!
ちゅか知っとったんやったら言っとけや!
強制睡眠となった林五郎に楽しそうに吹き出した藤堂くん。
始めの二人からは想像できないその仲の良さだけは喜ばしいことである、……多分。