【完】山崎さんちのすすむくん
一橋慶喜殿が十五代将軍につき数日。
「この国も本(モト)を正せば天皇が国を治め──……」
定期的に開かれる伊東参謀の講義も今ではかなり尊皇を説くものになってきた。
以前より参加していた者達は何ら違和感を抱くことなく、自然とそれを受け入れている。
……そらそうや、元から大した思想もないこいつらにとっちゃ参謀さんの話が全てやからな。
まぁ正直俺も左幕や尊皇やっちゅうとこにこだわりある訳やあらへんけど。
それでも、仕えた主に心からの忠誠を捧げる、それが乱破の道を選んだ俺の思想だ。
部屋の隅で伊東参謀の話を遠くに聞きながら、俺はカタカタと北風が障子を揺らす音に耳を傾ける。
然り気無く視線を滑らせると、熱弁を振るう参謀の周囲にはその姿に目を輝かせる昔馴染みの取り巻き達がいて。
最早なんかの宗教やな……。
実に末恐ろしく思えた。
確かに良い人物だとは思う。その上学も向上心もある。だからこそ今この時勢に憂いているのだろう。
が、それがどこか滑稽に思えるのはあいつ──篠原の笑みに言い知れぬ気味悪さを感じるからだ。
もしかするとこの中で一番恐ろしいのはあいつなのかもしれない。
……いろんな意味で。