【完】山崎さんちのすすむくん

手加減なしに木刀を握る斎藤くんは、中々手強い。


真冬だというのにその額には汗が滲んでいて、既に温まっている身体から繰り出される木刀は、下手をすれば軽い怪我では済まないこと間違いなしだ。


ま、そんなけ俺の腕を買ってくれてるんやろけどなっ。



「調子は如何です」


口にうっすらと笑みを浮かべて間合いに飛び込むと、すぐに堅い木と木がぶつかり合う音が辺りに響いた。


「それなりに」


何度も鳴り響く音。


短い言葉を交わしながらも隙は見せられない。


重い振りを受け止め、直ぐ様くるりと棒を回転させてその腹を狙う。


「それは何より」


手応えのないまま空を切ったその勢いを殺すことなく再び反対側を振り下ろした。


刹那、


「懐が、甘い」


腰を低くした斎藤くんの左手突きが俺のそこを狙った。





……こっわー……。


鈍い衝撃がジンジンと両の腕を伝わる。


寸分の狂いもなく俺の心の臓を狙ったその先端を、これまた寸分の狂いもなく己の棒で受け止めた、図。


角棒でほんま良かった……丸棒やったらつるーんいってるわ。



「殺す気ですか……」

「……いえ、貴方なら受け止めると思ってましたから」


とかなんとか言っちゃってぇー自分滅茶苦茶不満そぉな顔してますやんっ!


なかなかどうして戦闘狂なその人に内心密かに突っ込んで、俺は深く息を吐いた。



「ではそのように」
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