【完】山崎さんちのすすむくん
隊を離れる、それすなわち切腹。
恐らく暗にそれを指しているのだろうが、あの頭の良い参謀が何の策もなく隊規を犯し、果てに離隊まで企むとは到底思えない。
多分裏になんかあるんやろけど……。
部屋の反対でじっと斎藤くんの様子を窺うも、閉じた口はピクリとも動かない。
それ以上はまだなんも語らへんかったっちゅう訳か。流石にその辺は用心深いな。
まぁ取り敢えず今は向こうさんにお誘い受けたってとこが重要や。
それがわかればもう此処に用はない。
「承知」
そう言い残して再び屋根裏に上がる。
その間も何事もなかったように無反応を貫く斎藤くんは、やはり流石と言ったところで。
やっぱし敵にはしたないお人やわ。
「……で、お前はどう思う?」
件の報告にあがると、細い筆をゆらゆらと揺らしながら副長が俺を振り返った。
こうして一度俺の意見を求められるのは毎度のこと。
しかしながらいつもついそれに幼い頃の父とのやり取りを思い出してしまう。
『まずは自分で考えんかい』と何度も飛び苦無が飛んできた思い出までもが甦る。
根っからのおとん気質なんやろな……なんや色々年下や思えへんもん……。
「……何かしらの理由を用意しているならそのうち外部と接触を図るでしょうね。此処にいては大義名分を得られるようなことはありませんから。まぁ、今回結構派手な動きをされましたし、既に幾らか当てはあるのやもしれません」