【完】山崎さんちのすすむくん

久々に冷え込んだ今日。


薄く積もった雪で作られた、土のついた小さくいびつなそれを見て楽しそうに声をあげる夕美にほっとする。


敵だのなんだの言いながら気をすり減らす生活とは程遠いところに存在するこいつの隣にいると、自然と楽に息が出来た。


たるんでるんかなぁ、俺。




「あ、すすむやん!」


少しばかり複雑な思いで軒先に佇む雪だるまの横を通り過ぎようとした時、すぐ脇の路地から遠慮のない声が俺を呼んだ。


小走りで通りに現れたのは微かに見覚えのある四人の童達で。


……ああ、壬生寺で遊んどった子ぉらか。


寒さに頬を赤くしながらも元気そうなその姿に口許を綻ばせて、つん、とその赤鼻をつついた。


「久しぶりやな。ちゅうか大人を呼び捨てしたあかんで?」

「ほなすすむのおっちゃん、最近宗兄全然こぉへんねんけどどないしたん?」


……そらまあおっちゃんやけどな。


や、気にすんのはそこやなくて。


心配そうに俺を見上げくる童達の眼にちくりと胸が痛む。


皆ではしゃいだあの日がまるで物凄く遠い昔のように思えた。



「……仕事がな、ちと忙しなってん。実はあのお兄ちゃん皆が安心して暮らせるようにて頑張ってはんねんねんで?」


目線を合わせるようにしゃがみ込んで少しの嘘を織り混ぜる。


「そーなん?」

「ん、兄ちゃんも会いたがってるんやけどな。せやさかい自分らも少しばかし我慢してくれるか?」

「……うん」


口を尖らせつつも素直に頷いた童たちに僅かに目を細め、目の前に立つ男の子の髪をわしわしと混ぜた。


「よっしゃ、ええ子や」



出来ることなら俺も会わせてやりたいねんけどな。


彼の性格上、もうそんな日はこないとわかるからこそ心が苦しい。


ほんま、世は無情やわ……。




「ほなおっちゃんら一緒に遊ぼうや!」


おっちゃん、ら?
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