【完】山崎さんちのすすむくん
俺達の思いは三者三様。
夕美もそうだが、こいつもその心中は複雑なのだろう。
それだけ琴尾の存在は今でも大きく俺達の中にある。
夫として義兄として、嬉しくもあるが、夕美の心情を思えば尚更己の間抜けさが身に沁みた。
どー考えてもあれはあかん……。
「そんなお兄にええもん持ってきたったで」
再び小憎たらしい表情に戻ったそいつが指に挟んでひらりと靡かせたもの。
折り畳まれた、紙。
それってもしかせんでも……。
「夕美から?」
「さあ?」
……勿体ぶりよってからに。
肩を竦めて手渡されたそれに、五月蝿く脈打ち始めた心の臓を悟られぬよう、平静を装いそっと開く。
紙の中央には見慣れた文字が並んでいて──
『連れてこい』
……。
「これおとんやんっ!」
ずっと見てきたこの字を間違う筈はない。
し、しかも連れてこいてまさか……。
勢いよく突っ込んではみたものの、その内容に頬が軽く痙攣する。
ぱちぱちと瞬きしながら林五郎を見つめると、そいつはこれでもかと唇を横に引いて不敵に歯を見せた。
「そら藤田屋のおっさんから話くらいいくやろ。皆とっくに知っとるわ」
ひぃーなんや知らん間におっそろしーことにっ!!