【完】山崎さんちのすすむくん


おらんねん。


何処探したってもう、あいつは此処にはおらんねや──



敷いた布団の上に力なく倒れ込んで、天井を見つめる。


助勤に昇格したと同時に与えられた個室。漸く見慣れてきた天井板の木目をただじっと眺める。


何も考えず──何も考えられず、ぼーっと。



虚無感。



これをそう呼ぶのだろう。


俺の中で大きく座していた夕美の存在が突然消えて。


まさに胸には大きな穴が開いた。


琴尾が死んだ時は怒りや憎しみ、胸に湧いたそれらの負の感情がその穴を埋め尽くしていたらしい。


『いなくなるかもしれない』


そうわかっていたからこそ、胸にあるのはやり場のない想いが起こす痛みだけ。


腕の中から温もりの消える瞬間を感じた痛みだけだ。




……大丈夫とちゃうわ。


夕美の言い残した言葉を思い出して、ギュッと瞼を閉じる。


あんな風に消えられたらな、大丈夫やったもんも大丈夫やなくなんねん。


そらわかってたで?


わかっとったけどなんも今やなくてもええやんか。


やっと──……




そこまで考えて。


無意識に止まっていた息を大きく吐き出し、ゴロリと横を向く。


……やっぱ、俺らは一緒になったらあかん運命やったんかもしれへんな。


せやから神さんはまたあいつを拐ってしもた。


だって俺らはほんまやったら出会うこともなかってんから……。


そう無理矢理自分に言い聞かせる。


でなくば、例え一時でも靄(モヤ)を晴らすことなど出来なかったから。



再び息をつき、俺はゆるりと体を起こした。



「……どうぞ」
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