【完】山崎さんちのすすむくん
だがしかし、申し訳なくもある。
幾分元気そうには見えてもここ暫くは常に微熱がある状態、体力的に辛いことは間違いないだろう。
そんな中わざわざ部屋に来させてしまったことは、隊医を預かるものとして失格だ。
「すみません、ちょっとした兄弟喧嘩です」
流石にもちっと上手く立ち回るべきやったか。
つい俺もカッとなってもーたけど仮にも副長助勤やもんな……うん。
自身の事情はさておかねばならない現実的なしがらみを、自戒を込めて反芻する。
けれど、
「……その、少し聞いたんですけど、もしかして夕美ちゃんに何か……?」
沖田くんの発した言葉に考えるよりも先に体がぴくりと反応した。
心配そうに窺いくる彼の目にはからかいなど微塵も見えなくて。
「……ええ、まぁ」
俺は頼りなく笑うしかなかった。
蒸し暑い部屋。
もう表は完全に夜の闇が訪れ、微かな熱を放つ行灯の火だけがその存在を主張するように小刻みに震えている。
目を合わせなくとも彼が言葉の続きを待っているのだろうということは理解出来た。
真っ向からぶつかってくるところは以前と全く変わりなくて。
少しだけ、夕美に似てる、と……思った。
「……いなく、なったんです、昨日」
未だ受け入れがたい事実にチリリと胸が痛む。
俺がこうしてのんびりと此処にいることに、沖田くんも引っ掛かりを感じるかもしれない。
なじられるかもしれない。
それを覚悟して口にした言葉だったのに、返ってきたのは少し意外なものだった。