【完】山崎さんちのすすむくん
「お二人とも結構馬鹿ですよねぇ」
……へ?
確かになじるものではある。
が、のんびりとした響きでどこか茶化すようなそれに視線を上げれば、唇を尖らせた呆れ顔の彼が此方を向いていて。
「よくわかりませんけど、何か理由があるんでしょう? でなきゃそんな顔しませんよ」
ふぅっと息をついて、相変わらずの鋭さを見せる彼に思わずどきりとする。
まぁ繕う余裕がない分、今の俺はこの人にとって分かりやすいのかもしれないが。
それでもまさかそんなことを言われるとは思っていなかった。
「気付かないりんごくんもりんごくんですけど……」
逡巡するように目を游がせた彼は少しの間を挟み、再び俺を見る。
「良いんですか?」
何がとは言わず、深くも聞かない。そんなところがとても彼らしくて。
何故か話とは関係のないところで少し、ほっとした。
「……ええ、良いんです」
どうせ今はまだあいつも気ぃたっとるやろし。
それに……。
正直、まだ心のどこかで諦めきれていない自分がいる。
消えた櫛。
もしかしたらあれがまだ俺達を繋いでいるのでは、なんていう微かな思いがどうしても頭に過り、口を重くしていた。
全てを話してしまえばもう本当に戻らない気がして、口にするのを躊躇ってしまう。
……我ながら阿呆ちゃう思うけどな。